御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
早穂子はバッグからスマホを取り出して、始にメッセージを送る。
【わかりました。また今度】
さらさらと文字をタップして送信する。
自分が送った文字をじっと眺めていると、自分の言葉なのに、どこかうわっつらを撫でているような、寒々しい気がした。
(わかりました、か……。今度なんて本当にあるのかな)
自虐のつもりはないが、自分が送った文字を見ていると、不思議なくらい心がひんやりと冷たくなってくる。
激しいショックというよりも、ただ【無】だ。
心が静かで、なんの感情も沸き起こってこない。
へこみすぎて、気持ちが追いつかないのだろうか。
それとも諦めてしまっているのだろうか。
自分の心の中のことなのに、よくわからない。
「気にしない、気にしない……」
早穂子はへらっと笑ったあと、昨日美容院で整えたばかりの髪を指先でもてあそびながら唇を引き結んでいた。
業務を終えてエントランスに出ると、退勤中の社員でごったがえしていた。
「夏川さんは……」
ぐるりと周囲を見回したが、ゆずの姿はない。
遅れるなら一言あるだろうと、バッグからスマホを出して確認するが、彼女からの連絡は特に来ていなかった。