御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
「え?」
仕事ということを忘れて、早穂子はマグカップを持ったまま呆けてしまった。
濃紺のスーツ姿の始は、ここが仕事場だということを一瞬忘れて、うっとり見とれてしまうくらい素敵だったが、なぜ彼がここ――総務にいるのかわからない。
あり得ない状況に、早穂子の思考は完全に停止状態だ。
「お疲れさま。梶原さん、ちょっと彼女を借りていくよ」
一方、始は総務部長に向かってかろやかにそう言うと、
「一緒に来てもらっていいかな?」
とにこやかに微笑み、スタスタと総務部を出て行ってしまった。
「え、あ……」
立ち尽くす早穂子に、部長が「入社して半年過ぎた社員は、副社長の面談があるでしょ」と、にこやかに笑って、「さ、行っておいで」とうなずく。
(ああ……面談……!)
早穂子が去年の十月に入社して、かれこれ半年以上経つ。
具体的にいつと決められているわけではないが、ある程度落ち着いてくると、すべての社員は副社長が面談をするらしい、というのは聞いたことがあった。
(びっくりしたけど……急に時間が空いたから、面談しようってことになったのかな)
早穂子は白湯が入ったマグカップを自分のデスクの上に置いて、慌てて総務を飛び出し始めのあとを追いかけた。
(始さんは……)
きょろきょろとあたりを見回すと、始がエレベーターの前で、開閉ボタンを押して待っているのが見える。