御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~

始の長いまつ毛が、ゆらゆらと上下し始める。

彼の紅茶色の目にうっすらと水の膜が張っているような気がした。

「そしたら……ある日……誰のことも、愛してない……自分に気が付いて……」

始の声が次第に、かすれはじめる。

とても苦しそうだ。

それでも、彼は身を切るようにして、語ることをやめなかった。

「両親含め、近い人はみんな気づいてるんだ……。俺が上っ面でしか人付き合いしてないこと……表面上、調和が保てて、うまくいけばいいとしか、考えてないこと……。大事な人ほど、そこに気づいて……悲しませて……本末転倒、だよね……」

彼の言葉に、ふと思い出す。

初めて彼と話した時、リラクゼーションルームで彼が携帯で、誰かと話していたときのこと――。

『大丈夫だよ……死なないって……死ねないよ』

あれは、始の兄のことをほのめかしていたのだろうか。

体調を顧みず、休みなしに世界中を飛び回る始のアグレッシブな仕事のやり方に、生き急いでいると感じた人がいたのだろうか。

そして亡くなったお兄さんのことがあるから、始は『自分は死なない、死ねない』と答えていたのだろうか。

(始さん……)
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