御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~

そしてバッカスの会で、槙白臣が始に言っていたこと――。

『始さん、もっと自分を大事にしてくださいね』

ああ、そうだ。彼の言うとおりだった。

始はいつも自分をないがしろにしている。
他人の気持ちばかり考えて動いている。

だから親しい人たちは、みんな早穂子と同じように、始の中にある一種の寂しさに気づいていたのだ。

「だからってひとりは寂しい……ぬくもりは欲しい……。俺はじょうずに人を愛せないけど……せめて楽しんでもらえたら……って……思って……て……」

無言で始の言葉を聞いている早穂子の耳に届く始の声は、さらに小さくなっていた。

「俺は人でなしなのかも……しれないね……」

最後にそうつぶやいて、始はゆっくりと寝返りをうち、早穂子に背中を向けるようにして丸くなる。

(始さん……)

早穂子は体を起こして、始の頭をそっと撫でる。

今になってようやく、彼という人間の中にある、隠された脆さに、傷に、触れられた気がした。
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