御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~

本当のひとでなしなら、思いを返せないこと、他人を愛せないことに、苦悩などしない。

『人生は楽しむもの』

始の人生の信条だ。彼は常にそう口にしていた。
彼の唇からこぼれる言葉は、どれも本音だった。

思いをさらけ出さなかったのは自分の方だ。
遅いかもしれないが、過去には戻れない。今しかない。

「あなたは優しい人です」

早穂子はゆっくりと口にする。

だが始は苦しそうに体を震わせた。

「やめてくれないかな……君には幸せになってほしいんだ。俺みたいにどこか欠けた男じゃなくて……」

激しく体を重ね、愛し合った後、彼が自分の傷をさらけ出したのは、きっと早穂子のためを思ってのことなのだろう。

だが同時に、彼にとって他人に弱みを見せると言うのは、相手に負担を強いることなのだ。

たとえ早穂子がそれでもいい、痛みを一緒に背負いたいと思っても、それとは別のベクトルで、彼は自分が許せない。
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