御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
「どこ行ったんだろ~?」
のんきな声が聞こえる。
ゆずだ。
ごめんなさいと思いながらも、早穂子は心の中で必死に叫ぶ。
(でも、早く行って~! 私の心臓がもたないからー!)
けれど始を探す人たちの声はなかなかこの場を離れようとしない。
行ったり来たりして、戻ってくる。
その間当然、自分は始に抱かれたままだ。
(ああ……気が遠くなってきた)
ふたりの間にある音は、呼吸音と、心臓の音だけ。
そして始からはなんとも形容しがたいいい匂いがして、息を吸うたびに、自分の体の中に始の匂いが満ちていく。
このまま呼吸をしていたら、彼でいっぱいになるような気がする。
すでに感情はドキドキを通り越して、フワフワしているような、夢の中にいるような、そんな気分になってしまっていた。
(不思議だな……)
いつの間にか、まるでこうしているのが自然のような、抱き合うとぴったりと体がおさまっているような気さえしてきた。