御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
他人から奪ってばかりの人間など、この世界には履いて捨てるほどいるのに、彼はそれをよしとしない。
正直、とても面倒だし、平凡な自分が理解するには少々手間取る、複雑怪奇な精神構造をしている人だと思う。
だがそれが山邑始という男で、そういう繊細さを秘めた彼を、早穂子は愛してしまったのだ。
「――私が眠れるようになったのは、あなたを愛しているからです」
「そんな……俺なんか……俺なんか好きになったらだめだよ……」
「愛してるから……あなたの腕に抱かれていると、ひとりじゃないって思えるの。寂しくないんです。ずっと、ずーっと、幸せでしたよ」
「でも……」
「私の気持ちは、私のものです。否定しないで」
早穂子はそうやんわりとではあるが言い切って、始の肩をなでる。
何も言えなくなったのか、始はシーツに顔をうずめて、無言になった。
表情はわからないけれど、全身に力がこもって強張っているのはわかる。
きっと、自分がなにを言っても、彼を追い詰めるだけ。
誰よりも幸せになってほしいと思う人なのに、自分の愛が彼を苦しめている。
そう思うと、早穂子の胸はぎゅうっと締め付けられるように苦しくなった。