御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
「さっ、サホコ~!」
早穂子の言葉にゆずは一気に涙目になると、「だいすきだよー!」と早穂子に抱き着いてきた。
「ふふっ、ありがとう」
そうやってゆずを抱き留めて笑いあっていると、視界の端に、ゆずの学生時代の友人がブーケを持っているのが見えた。
大きな白いブーケはずっしりと重そうだが、彼女はとても大事そうにそれを抱えている。
数人の女の子の輪の中で、「次は私の番かも!」と盛り上がっていた。
(結婚、かぁ……)
気が付けば早穂子も二十九歳になっていて、学生時代の友人たちは、三十歳を目前にしてバタバタと結婚の準備をすすめている。
早穂子もつい先日、妹が結婚して、家族から「付き合っている人はいないのか」とせっつかれたばかりだ。
当然、「付き合っている人もいないし、誰かと結婚したいとも思わないから、紹介とかもいらない」と答えて、家族を残念ながらせたのだが、これでいいと思っている。
以前の自分なら、ただ不機嫌になって家族を避けるか、距離をとっていた。
『どうしてわかってくれないんだろう』と、自分の気持ちも告げずに、鬱々と悩んでいただろう。
だが今は違う。
イヤなものはイヤだとはっきり言えるようになったし、どうするかは自分で選んだのだからと、現実を受け止められるようになった。
(こうやって、人は少しずつ大人になるのかな)
だとしたら地道に年を重ねるのも悪くない。