御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~
「あっ……!」
酔っていないと思っていたが、どうやら足に来ていたらしい。
持っていた引き出物や、パーティーバッグがあたりに散らばってしまった。
「お客さん、大丈夫ですか?」
運転手が驚いて振り返る。
「だっ、大丈夫ですっ……行ってください」
早穂子は慌てて、降りてこようとする運転手に首を振った。
運転手は一瞬迷ったようだが、「気を付けてくださいね」と言い、そのままタクシーは走り出した。
「はぁ……失敗失敗……」
早穂子はため息をついて、とりあえずバッグの中身を拾い集める。
「財布、小物入れ……あれ……スマホがない……」
どこかに滑って行ってしまったのだろうか。
当たりをきょろきょろしていると、そこで、大きな手が、早穂子のスマホを拾って差し出してくれた。
「……ありがとうございます」
親切な人が拾ってくれたのだと、顔を上げようとした瞬間。
「――早穂子」
すぐ近くから、少し緊張したような、強張った男性の声がした。