御曹司の蜜愛は溺れるほど甘い~どうしても、恋だと知りたくない。~

早穂子の部屋に泊まりに来るはずだった始が、涼音との仕事を優先させたこと。

早穂子が見ていることに気が付いていながら、涼音は始と親しげなそぶりを見せたこと。

今思い返せば、あれほど傷つく必要はなかったのかもしれないと思うけれど、不安定だった早穂子は、揺れてしまった。
嫉妬で目を曇らせ、ひとりで苦しんでしまった。

「――いいえ」

早穂子の胸には、色々思いは込み上げてきたが、結局、首を振っていた。

「お詫びなんて……いいんです」
「でも……」

涼音は少し困ったように首をかしげる。

「だって、私たち、お互い悪いことをしたわけじゃないでしょう?」

法に触れたわけでもない、彼女も自分も、始をそれぞれ、好きだっただけだ。

じっと涼音を見つめ返す。

涼音は以前会った時よりも髪が伸びていて、さらにたおやかに美しく見えた。
だがその瞳はどこか寂しそうにも見えて……。

「そう……。本当にあなたって……勝てないわね」

涼音はそう言って柔らかく微笑むと、その場を立ち去ってしまった。
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