風薫る
「どの本貸そうかな、とか」

「この本貸したらどんな反応してくれるかな、とか」

「好きになるキャラは誰だろう、とか」


そういうの、


「「含めて選ぶのが楽しいよね」」


予感とともに重なった台詞に、顔を見合わせて笑った。


木戸さんとの共通項がまた一つ増えて、嬉しい。


あまりに貸し借りとおしゃべりをしすぎて、だんだん似てきたのだろうか。

最近、ごくたまに言葉が揃うときがある。


親しい証のような瞬間は、わずかな照れくささと多大な喜びをもたらして、余韻が淡く喉に残って、迫る歓喜にさえ消えない。


「そうだよね」


と木戸さん。


「そうなんだよ」


と俺。


くすり、どちらからともなく笑った。


「……同じだね」

「同じだね」


ああ。


「……嬉しいなあ」


滑り落ちていた俺の言葉に、木戸さんはゆっくり瞬きをして、ちょっと目を見張った。


その動きを鈍くなっていた頭が捉える。


木戸さんが目を見張っ……あれ、ちょっと待て。俺は何を言った。


「あ……ごめ、」

「待って」


咄嗟に出た謝罪を、木戸さんが身振りまでつけて必死に押し留める。


「待って、黒瀬君」
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