風薫る
絡めていた手を離して、仕切り直すように瞬きをする。


揃った仕草に自然と笑みが溢れた。


「木戸さん」

「うん」


黒瀬君がいささか申し訳なさそうに私を呼ぶ。


「昼食さ、俺は購買で買うから遅くなるだろうし、集合場所は図書館でいい?」


多分、読書して待っていて欲しい、ということ。


こういうさりげない気配りを忘れない辺り、さすがだ。


「私はお弁当だと思うから……」


分かった、と了承しようとしたところで名案を思いついた。


「どこか近くのお店に食べに行こうか?」

「え?」


黒瀬君とは下校途中しかいたことがない。


瑞穂と遊びに行くときみたいに、お茶しながら甘いものでも食べたら、きっと楽しいんだろうな、なんて。


戸惑う黒瀬君に慌てて補足する。


「もちろん無理強いはしないよ、でもその、一緒に食べたいなって思って……」


くどくならないように、もう一度だけお願いする。


「もしよかったら、ご飯一緒に食べませんか……!」
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