ひとりぼっちの夜は、君と明日を探しにいく
昨日の帰り道。あのあと電車に乗って駅前で別れる寸前、詩月はこう私に言った。
『もう一度あの街に行こうと思う。俺が育った場所……自分の本当の家をこの目で見たい』
とても強い顔をしていた。
もしかしたら詩月の過去はこのまま知らないほうがいいことなのかもしれない。もしかしたら人生を変えてしまうような事実を知ってしまうかもしれない。
それでも詩月は……向き合うことを選んだ。
どんな未来でも、どんな結末が待っていても、
それでも逃げることはしない。
私は詩月の放送に耳を傾けながら、目の前にある相談用紙を手に取った。
〝あなたの悩みをここに書いてください〟と手書きで紙に書かれていた。多分詩月の字だ。近くに転がっていたボールペンの芯を出して、詩月に見つからないように走り書きをした。
【どうしたら強くなれますか?】
私の悩みはたったの一行。
私は現実から逃げてばかりの臆病者。だから詩月がどんどん強さを手に入れていくから、少し置いてきぼりの気分だよ。
だけどその日の放課後。靴箱を開けると昼休みに書いたはずの相談用紙が靴の上に置かれていた。
そっと広げると見覚えのある筆跡。
【ひとりじゃなくて、ふたりなら】
それは私と同じでたった一行の返事だった。
匿名で書いたはずなのにどうしてバレたのだろう。詩月にも不思議な力があったりするの?
だってね、その短い答えで悩んでいたものがまるで霧が晴れたように消えていく感覚がしたから。