君が思い出になる前に…
「あ、い、いや、なんでもない…。あとで書いておくよ。ごめんね」
って、言うしかないよなぁ。
あくまでもおれは今、15歳の中学3年生…。
そんな風に自分に言い聞かせてみた。
「しょうがないなぁ、ちゃんと帰りまでに書いておいてね。1回忘れるとズルズル忘れてくから」
そういうものなんですか?
「分かった…ごめん」
コクリとうなずくと、
「早く教室入ろう」絵美はニコっと微笑んで校舎に駆けていった。

「よ!裕作!」
健太がおれの背中を急に突き飛ばした。
「な、なにすんだよ!」
「わりぃわりぃ、ビックリした?朝から暑いんだよ、お前ら」
そういう事かよ。
いわゆる僻みですか…。
ならいいや。許す。「早く行こうぜ、チャイム鳴るぞ」
勝手にしろ。
夕べのうち、中学の教科書ペラペラめくってみたけど、なんとなく覚えていた。
自信ないけど、ひょっとしてひょっとするかも…。

一時間目、国語。
読み書きも文章問題もなんだか完璧!
そして二時間目は数学。
なんでか分からないけど、スラスラ解けてしまった。
忘れてなかった。
入試勉強した時の事。
大丈夫?こんなにできて…。
15年前のおれは、出来よくなかったよ…。
秋の三者面談で、岡本先生に志望校のランクを下げた方がいいって言われたんだから。
東高をあきらめて、北高にしたほうがいいって。
東高に行きたかった。それから大学にも…。
三時間目、四時間目も無事やり過ごせた。かなりいい線いってるかも…。


昼休み。
「裕作、お昼は?」健太がやってきた。
「あ~、弁当だよ」カバンから今朝の弁当を取り出した。
おっと!このハンカチ。あ~ぁ、忘れてた。冷やかされるなぁこりゃ…。
「いいなぁ~、裕作は。あんな綺麗なお姉さんにいつも弁当作ってもらえて…」
え?知ってんの?
いつも?いつもこの弁当?
だから、このハンカチ見ても冷やかさないのか?
様子がだいぶ変わってきたなぁ…。
この先どうなる事やら…。
うまい!姉さんの作った弁当…。

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