君が思い出になる前に…
それにしても未来から来た事を昨日話したにも関わらず、一切様子が変わらない絵美…。
どこから来ようと、おれはおれって言ってたけど。
本当にそんなんでいいのだろうか…。

「準備できた?」
居間に戻ると、絵美が笑顔でそう言った。
「うん」
朝ご飯食べてないけど…。
絵美を待たせてるしなぁ。
「じゃあ、行こ!」朝ご飯…。
「あんまり遅くならないうちに帰ってくるのよ。絵美ちゃん、よろしくね」
母さんみたいな事を言う姉さん。
「はい、大丈夫です!」
元気に答える絵美。何が大丈夫なの?
多分、おれの方がずっと年上のはずなんだけど…。多分ね。
「行ってきま~す」おれより先に言う絵美。
やっと起きてきた母さんと、朝から元気のいい姉さんが並んでいつものごとく、手を振っている。

「元気よねぇ~、お姉さん」
「ほんとだね」
ここに来て5日目の朝。
たった5日しか経ってないのに、もうずいぶんここにいる気がする。
かなり違和感がなくなっている事に気づいていた。

10分ほど歩いて、この街の小さな駅についた。
遊園地はここから三つ目の駅。
3両編成の電車がきた。
手を繋ぎ、二人で乗り込んだ。
絵美は大きなバスケットをひとつ持っている。
「それ、持つよ」
気になって声を掛けた。
「ん~ん。重くないから平気よ」
隣りに座る絵美。
今日はデニムのショートパンツ姿。膝の上まである長い縞々のソックスを履いている。足が長いからよく似合う。
またずいぶん可愛い格好してきたなぁ。窓側に座った絵美を見るでもなく、景色を見るでもなく、目線のやり場に困ってしまう。

まもなくして駅に着いた。
駅を出ると目の前に遊園地が見えた。
もうすでに、人がゲートに並んでいる。「いっぱいいるねぇ」
と、絵美が言った。「ほんとだぁ」
あんまり人の多いところは、昔から好きじゃなかった。
でも、約束したのはおれの方だから、我慢しなきゃ…。
今日は1日、笑顔で通そう。

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