リアル☆タイムスリップ
 あんぐりと、いつかのように正宗が阿呆面を曝す。
 何とも単純な理由だが、なるほど、言われてみればその通り。

「……いやでも……。漫画や物語じゃ、皆何かの拍子に帰って来てるぞ?」

『それは漫画や物語じゃからの』

 しれっと言う。
 正宗は打ちのめされた。

 タイムスリップしたらそのまま。
 隊士と恋仲になり一緒に現代に帰ってきたり、涙の別れで一人だけ現代に帰ってきたりすることはない。

 過去に行くのは片道切符。
 過去に行った時点で、『現代』というものはなくなったのだ。

「帰れない……? ずっとここで暮らすのか?」

 ぞく、と背筋が寒くなる。

『でも、おぬしはラッキーなほうなのだぞ? 過酷な剣客集団とはいえ、すんなり一員として扱われておるし、住むところも給金もある』

 その代わり、いつ死ぬかもしれない立場だ。
 現代歴女で新撰組は憧れらしいが、入ってしまえば恐怖しかない。

 現実は物語のように甘くはないのだ。
 現代人のもやしのような精神で耐えられるところではない。

『ていうか正宗。おぬし、そこまで冷静に状況を分析できるのも凄いぞ。己のことも、よぅわかっておる』

「わかったところで何の役にも立たん」

『そんなことはない。単なる現代人よりも、おぬしは恵まれておるぞ? わしがおるだけで、随分違うじゃろ? 兄君も父君も、わしのことは見えなんだ』

 正宗は、のろのろ顔を上げた。
 確かに。
 たった一人でない、ということは大きい。
 例えそれが人外であっても。
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