秘書と野獣

「もういい。今日はもう帰れ」
「えっ?! で、でもっ!!」
「でもじゃねぇよ。熱で顔真っ赤にしてる奴に接待なんてできるわけねーだろうが。いいから帰れ」
「でもっ! 今日は…!」
「はぁっ。いいか、これはお前だけの問題じゃねぇ。お前はそれでいいかもしれないが、その結果周囲にうつしたらどうする? 今無理をすることは迷惑でしかねぇんだよ」

「あ…」

病人相手に言い過ぎなのは百も承知だが、こうでも言わなきゃこいつは絶対に帰らない。

「すみ、ませんでした…」

「謝罪なんていらねーよ。今ならギリギリ病院も間に合うだろ。今日はどうしても送ってやれねーから。タクシー呼んでやるから必ず寄って帰れ」
「は、い…」
「熱が下がろうと明日は来るな。いいな」

「わかりました…すみま…本当に、ありがとうございます」

その後すぐにタクシーを手配して野上に事情を話すと、あいつは全く驚くこともなく状況を呑み込んだ。俺が直々に引き抜いてきただけに、こいつは非の打ち所のない仕事をする男だ。
自分のせいで急遽変更させてしまったことにウサギは終始申し訳なさそうに落ち込んでいたが、野上はそんなあいつを優しく労っていた。その姿に何故かイラッとするが、それを見て見ぬフリしてやがて到着したタクシーにウサギを押し込んだ。
絶対に家のことなどするなということと、明日は必ず休むことを厳命して。

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