秘書と野獣
「華さん頑張り屋さんですもんね…。大丈夫かな。帰りに何か差し入れでも…」
「夜遅くに女の部屋になんて行くもんじゃねーよ。非常識だし病人にとっちゃありがた迷惑以外の何ものでもないだろ」
「……じゃあ社長も行かないんですよね?」
「あ?」
やけに含みを持たせた言葉に野上を睨み付ける。
見れば射貫くようにしてこいつも俺を見ていた。
「……当たり前だろ」
「…そうですか。よかったです。お見舞いに行くなら明日以降にしますね」
「……」
チッと心の中で盛大に舌打ちする。こいつは仕事もできるが、それ故に全くと言っていいほど隙がない。静か動かで言えば間違いなく前者だが、時折俺に対して挑戦的な態度をとる。
それは決まってウサギが絡んだときだ。
この男がウサギを女として見ていることは明白で、それに気付いていないのはおそらくウサギ本人だけだろう。じっくり時間をかけて落とすつもりでいるのだろうが、何をどう考えているのか、時折こうしてわかりやすく俺を牽制してくる。
俺はウサギの男じゃないってのに。
野上は癖がある奴ではあるが、誠実な男であることに疑いの余地はない。おそらくウサギに対する気持ちは本物だろうし、あいつだけを大事にしていくことだろう。だからウサギにはこいつのような男が相応しいのかもしれない。
だが…
「そろそろ時間だ。行くぞ」
「はい」
チッ。だから一体何なんだよ。
沸々と湧き上がってくる苛立ちを振り払うように、椅子に掛けてあったスーツのジャケットを手荒に掴み上げた。