秘書と野獣
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RRRRR… RRRRR…
「………出ないな。さすがにもう寝てる…か」
接待をいつもより早めに切り上げて見た腕時計はもうすぐ22時を指そうとしている。あれから病院に行ってその後忠告を無視して家のことをやっていたとしても、いくらなんでももう寝ているだろう。
…が。
「すみません、ここまでお願いします」
何故だか胸騒ぎがおさまらず、足は迷うことなくあいつの家へと向かっていた。
部屋の前まで行って特におかしな様子が感じられなければそのまま帰ればいい。ただそれだけのことだ。電話に出ないのも単純に寝入っているからに違いない。
車窓から流れる景色を見ながら、俺は逸る気持ちを抑え込むように必死に言い聞かせていた。
十分ほどで着いたマンションを見上げると、まだ部屋には灯りがついてる。
あいつが起きているのか、あるいは莉緒が起きているのか。後者であることを願いながら念のためタクシーを待たせて階段を駆け上がっていく。今はエレベーターが下りてくるのを待つ時間さえ惜しい。
付き合いでそれなりに酒を飲んだにもかかわらず、不思議なほどに足取りも頭の中もクリアーだった。