秘書と野獣
______
やって来たのは高級ホテルのスイートルーム。過去どんなに女にねだられようとも絶対に足を向けることのなかったその場所に、俺は迷うことなく足を運んでいた。
特別感を味わわせることで深入りされたくはないという絶対に譲ることのなかったこだわりは、本当に好きになった女の前では跡形もなく砕け散った。それどころか、少しでもいいから喜んで欲しいという願いで溢れかえる。
生まれ変わった人間というのはこうも違うものなのだろうかと、自分で自分が信じられないほどだった。
「_____華」
部屋に入るなりしがみついてきたあいつの名前を口にする。
ずっとずっと呼びたくて、だがどこかで躊躇って呼べずにいた愛おしい名前を。
ひとたび口にしてしまえば、たちまちそこから爆発的な感情が溢れ出す。
初めて呼ばれた自分の名に、今こいつは何を感じているだろうか。
正体がばれていたのかと驚愕することも考えたが、ウサギは何も言わずにしがみつく手により一層力を込めた。
「……本当にいいの?」
「いい、の。めちゃくちゃに、して…」
あらためて意志を確認した俺にそう答えたあいつに、ハッと言葉にならない音が喉から出た。
それは笑っていたのか驚きからでたものなのか、それすらもわからない。
直後、背中から全身に向かってぶるりと震えが走り、男としての本能が剥き出しになっていくのをはっきりと肌で感じた。
躊躇う理由など、もうどこにもないと思えた。