秘書と野獣
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「おはようございます、社長。……華さん」
「う…お、おはよう…」
ニッコリと向けられる笑顔に、私はいたたまれなくなって思わず俯いた。
「昨日は社長が無断欠勤なんてされたので一体何事かと心配しましたが…まさか華さんと一緒に出勤されるとは。まさかまさかの連続で本当にびっくりです」
ザ・わざとらしい大賞に選ばれんばかりの棒読みが耳に痛い。
____あれから。
婚姻届を出しに行く以外はひたすら寝室から出してもらえなかった私は、週が明けた月曜となってもまだ貪られ続けていた。
既に辞表を置いていった私はともかく、社長には普通に仕事が待っている。それを必死に訴えても全く聞く耳を持ってもらえず、「俺が育てた優秀な秘書がもう一人いるから問題ねぇ」とかなんとか俺様ルールで黙らされ、その後は…言わずもがな。
そうして翌日、全身をガクガクさせながらもようやく出社を果たした私達を、待ち構えていた野上君が…それはそれは生温かい眼差しで出迎えてくれた。
それも当然だ。私は社長の支えがなければ立っていることすらままならない上に、普段つけもしないストールを首にグルグル巻きにしているのだから。
「何が」あったかなんて、想像するだけで砂を吐きたくなるってもんだろう。