誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
〈やっぱり時間かかったわねぇ。〉
「仕方ないよ。方角がみんな違うんだから。」
〈それもそうなんだけど。〉
「これで、当分仕事も安心して出来るよ。」
〈ねぇ、ご褒美にアレ食べたいわ。〉
「ご褒美って……これも仕事なんだけどなぁ。」
納得がいかないが、素直に従うところを見ると、俺もビビには甘いんだよね。
ついこの間来たばかりのbar。
心地よいベルの音を耳にしながら、中に入る。
カウンターには、アイツとは違う人が座っていた。
「あ、こんにちは。
というか、こんばんはだね。」
「……どうも。」
由樹さんは、隣の席をポンポンと叩き、座るよう促す。
特に断る理由もないので、促されるまま隣に腰掛ける。
「……ビビに。」
頼むのはいつも同じものだから、マスターも覚えてくれている。
〈ふふっ、ココのケーキは絶品なのよね!!〉
ビビはここのケーキがお気に入りで、怒っていても大抵はここのケーキをあげれば機嫌が治るほど。
注文してないのに俺の所にいつもオレンジジュースを出してくるのは、マスターの気遣いなんだと思う。
「学校がない休日はどう?」
「……退屈です。」
「ははっ、贅沢だね。
僕はレポートとかが丸々出されちゃって……。」
憂鬱そうな顔をしているけど、多分余裕なんだろうなとふと思った。
「……燐理と待ち合わせ?」
「いや?僕も燐理も、毎晩のようにココにいるよ。
僕も、すっかりこの雰囲気にハマってね。
そういう真琴くんは?」
「……ビビが、ここのケーキがお気に入りだから。」
「そうなんだ。
確かに、ここは何食べても美味しいな。」
会話が止まると静かに聴こえる洋楽。
どちらかが話題をふるわけでもなく、何分経ったか分からなくなるほど、その空間は静かだった。
「1つ聞いてもいいかい?」
「……どうぞ。」
「どうして……隠したがるのかな?」
言葉の意味がわからなかった。
「……何も、隠してなんか……。」
「別に全てをさらけ出してとは言わない。
仲間になれたばかりの僕がそこまで願うのは傲慢だと思うから。」
由樹さんの瞳は真剣そのものだった。
「真琴くんがどういう経緯でこの仕事を始めたのか、とかは聞かないよ。
いつか真琴くんから話してくれたらと思うし。
同情したから仲間にして、なんて言ったつもりも毛頭ないから。
でも………………"女の子"が男装してる理由は聞かせてほしいかな。」