誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
心臓がキシリと音をたてた。
耳を通して聞こえてきた言葉を脳が理解するまでに、結構な時間が経った気がする。
「……誰から……ッ?」
「燐理からだよ。
燐理も、確証があるわけじゃないって言ってた。」
「……そう、ですか……。」
別に否定するつもりはない。
今までずっと隠し続けてきた俺の正体。
剣城 真琴は……女として生まれた。
ただ、それと同時にあの日……両親が死んだ時を境に女であることを捨てた。
俺が女だからという理由で、男だった弟が連れていかれた。
俺が男だったら、弟だけでも護ることが出来た。
女だから力がない。女だから護れない。
もうあんな思いをするのは二度とごめんなんだ。
だから、男に負けないほど力もつけた。
女の身体でも勝てるように色々考えた。
そして、男として偽って生きることを決意した。
護り屋だということがバレても、性別を偽っていればどうとでもなる。
自分にとって、性別を偽って生きることよりも、誰かを護れなくなることの方が重要だったから。
学校だって、バレる可能性の低い男子校を選んだ。
フードを被って無口な男子高校生を演じた。
自分にとって危ないと思うものは片っ端から排除してきたし、極力関わらないようにしてきた。
「……俺は、"俺"の目的が果たされるまで変わることはない。」
「その目的は、どんなことよりも大切なもの?」
どんなことよりも……。
「……"俺"が存在する唯一の理由だから。」
そのためだけに生きてきた。
それがなくなったら……俺は"俺"でなくなってしまう。
「そっか。
……なら、僕はそれを手助けするだけだよ。」
恐る恐る顔をあげると、由樹さんは微笑みながら言ってくれた。
「……でも、俺は……騙して……。」
仲間になりたいと言ってくれた人には散々言わせておいて、自分のことは何も喋らなかった。
否、喋る気なんかなくて。
そんな卑怯な俺でも、手助けすると言ってくれて。
「1人だと思わないでくれ。
僕は、元々そういう経緯とかにはあまり興味がないんだ。
ただ、支えてあげたいと思った。
1人だと何かと大変だろうしね。」
そうやって聞きたいことを隠してくれる所が、やっぱり大人なんだと思う。
「……護り屋が女だってバレると面倒くさい、だけ。
今は……それしか、言えない。」
「ははっ、うん。ありがとう。」
お礼を言われる筋合いなんかないのに。
罪悪感でいっぱいになる。
最近はこんな思いばっかりだ。
周りの人とどんどん近い関係になって。
嬉しいという気持ちを知ったのに、それと同時に負の感情も滝のように溢れてくる。
由樹さんは頭を撫でてくれた。
何度も、何度も。
来都とはまた違うその感触も、俺は好きだった。