誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
真琴とビビが店を出た後。
カランコロン~
「お、今日もいんのか。
ほんと暇だよな、由樹。」
「そういう燐理もほぼ毎日来るじゃないか。」
「俺は仕事終わりの1杯だっつーの。」
燐理は社会人として働いているのだとこの間聞いた。
それにしても、毎日はどういうものなのか。
まぁでも、今はそんなことどうだっていい。
さっきの会話が頭の中で何度もリピートされる。
"だってアイツは…………女だろうが。"
あの時は、ただの燐理の想像でしかないと思っていた。
それが、まさか本当だったなんて。
そう1つ考えると、全てが繋がるような気がした。
あまり喋りたがらないのも。
フードや仮面で顔を隠すのも。
大きめの服やマントを着ているのも。
自分を俺と言うのも。
全てが自分を女であると隠すため。
「少しは、近づけたのかな……。」
客観的に見れば大きな進歩だろう。
質問された時点で嘘をつくことだって出来たのに、あの子はあえてそうしなかった。
それは、あの子が教えてもいいと僕に思ってくれたという象徴で。
近づけたことに、喜ぶべきなのに。
それなのにどうして……こんなにもハッキリしないんだろう。
「本当は分かってたことなんじゃねーの?」
「え……?」
「真琴を知ることは、即ち真琴の今まで生きてきた時間や環境を知るってことだ。
アイツが普通で育った訳がねぇ。
普通で育ってたら、あんなになってねーだろうが。
つーことは、アイツを知るたびに俺たちは自分の不甲斐なさや憤りで埋めつくされんだよ。」
燐理の言う通りだ。
あの子のことを知るたびに、きっと僕は自分を罵る。
なぜあんな優しい女の子がこんなことをしなきゃいけなかったのか。
あの子が苦しんでいる時に、僕はノコノコ生きていたのが馬鹿らしくないのか、と。
「その苦しみや悔しさは、俺たちの罰だ。
アイツをこんな風にさせた世界の代表として、アイツを見届け支えてやる義務がある。」
「そうだね……。」
感情の波に流される僕と違って、そうやって受け入れられる燐理はやっぱり大人なんだろうな。
「つーか、由樹がそんな顔してるってことは、真琴は女だったのか?」
「……うん。否定はしてなかった。
"俺は、"俺"の目的が果たされるまで変わることはない。
それが、"俺"が存在する唯一の理由だから。"……って。」
「……へぇ。
じゃあ、当分は男のまんまか。
アイツの女の姿、見てみてぇのによー。」
からかい口調で言ってる割に瞳が真剣なのは、真琴くんのことを考えているからだろう。
素直じゃないんだからなぁ。
「あと……"騙していてごめん"だって。」
「ハッ、バカバカしいぜ。
んなの気にしてねーっつーの。」
「ふふっ、燐理はツンデレなんだね?」
「お前……今のどう聞いたらそうなんだ?」
1歩ずつ歩み寄っていけばいい。
お互い歩んでいけば、いつかは目的地に辿り着くはずだから。
今の僕らは、それを信じるだけ。