誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。



HRギリギリに教室に入ると、見慣れた髪が目に見えた。



「あっ、真琴!!久しぶりだねぇー!!」



それはいつも見ている笑顔だった。



「……風邪は?」



「もうこの通りピンピンしてるよー!!」



「……なら良かった。」










それからはいつも通り楽と喋った。



久しぶりのこの感覚に思わず笑みが零れる。



「どうしたのー?真琴が笑うなんて。」



「……何でもないよ。」



「えぇー!!気になるー!!」










プルルルルルーー、プルルルルーー



「……ちょっと悪い。」



ディスプレイに表示されたのは燐理だった。



急ぎ早に廊下を歩きながら人気の少ない場所に向かう



「……なに?何かあった?」



«いや、そんな重大な事じゃねぇんだが……ちょっとコッチだけじゃ話が収まらなくてな。
本家にも聞いてもらおうかって思ってよ。»



「……ん。分かった。
じゃあ、由樹さんにも連絡しといて。」



«……由樹のこと、ちゃんと信頼出来たんだな?»



「そんなんじゃないよ。
ただ、あそこまで踏み込んできてくれる人を大事にしたいと思っただけ。
燐理も、まぁ大事に思ってるよ。」



«ハッ、偉大なwhite castle様も変わったっつーこんだな。
安心しろ。俺たちはお前を見捨てたりなんかしねぇから。»



茶化すくせにちゃんと考えてくれている所が本当に燐理らしい。



「……ありがとう。」



«じゃあ、今日の夜いつもんとこでな。»



通話の切れた携帯電話を見つめる。



大事に思ってる。



私は2人に支えられてる。



1人に戻るのが怖くて、でも1人じゃないと実感させてくれる人達がいる。



本当に変わったものだな……。



「……時間過ぎてる。」



もう既に授業が始まっている。



授業中に戻るのも嫌だし、最近はビビもいないし……。



久しぶりに屋上でサボるか。



屋上のドアを開けると、1人先客がいた。



見慣れたモスグリーンメッシュが入った髪を風に揺らしながら。



「あれ、真琴どうしたの?
真琴と昼以外に会うの久しぶりだね。」



その言葉に返事を返すことが躊躇われた。



どこか遠くを見ていた桜悠の表情は、今までに見たこともないくらい……憂いを帯びていた。



「……電話してたら授業の時間過ぎてて。」



「へぇ、彼女さんかな?」



「……それ、冗談じゃなかったら泣いてやろうか?」



「いいね。真琴の泣き顔を1番に俺が見れる。」



「……今ので桜悠に対する好感度ほぼ0になった。」



「うわ、酷いね。」



上辺だけの会話がひとしきり終わると、また静寂に包まれた。



同じ空間にいるのに、桜悠だけが違う空間にいるような錯覚を覚えた。



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