誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
とても、とても冷たい雪に覆われたような……そんな場所。
そんな場所に1人で蹲っている桜悠の姿が見えた気がした。
何も言わずに桜悠の隣に立つ。
桜悠がいる空間の境目まで。
まだ……その空間に入る資格を、私は持ち合わせていない。
「真琴って鋭いよね。」
「……」
「この間、来都を一目見て行動に移した真琴を見た時思ったよ。
"あぁ、厄介な子と仲間になってしまった"って。」
「……それは、迷惑なことだった?」
「いや、良いことだよ。
だけど、その鋭さが……いつか真琴自身を傷つける結果に導くことがあると思っただけだよ。
鋭いだけならまだいい。
でも、鋭いうえに行動してしまう。
その性は……どうしようもない結末を生む。」
桜悠の笑い方は残酷だ。
その小さな微笑みが、いつも桜悠自身の気持ちを隠してしまう。
だからこうして、言葉にしながら気づかれまいとしている。
人に無関心で1人を望んでいた頃の私だったら、気にすることなんてしなかった。
例えその変化に気づいたとしても、それに触れることは絶対しなかった。
でも、今は違う。
もう、見て見ぬフリなんて出来ないんだ。
身体が、心が、自然に動いてしまう。
「……もし、もし桜悠の言う結果になった時は、その時はその性を受け入れるよ。
ただ、そうなってしまったとしても……俺はその時行動したことを後悔はしない。」
「本当にカッコイイね、真琴は。
少し……羨ましい、かな。」
ここで桜悠と私の間の壁が完成していたのなら。
私はどうする事も出来なかっただろう。
でも、作り途中でよかった。
今さら一線を引いたところでもう遅いよ、桜悠。
「真琴は……もし俺たちと出会わなかったからどうした?」
「……ずっと孤独だったよ。
誰とも関わらないまま、ただ流れる時間に逆らうこともなく過ごした。」
「誰とも関わらないのは、理由があるから?」
浮かぶのは、いつだってアノ人の姿。
「……俺は、周りに不幸しか与えない。
それを自覚して、経験しているから、1人でいい。」
もう散々目の当たりにして、幾度も心が折れた。
だからこそ、"立ち向かわない"ことを覚えた。
そうすれば心が折れることもないから。
「ならどうして、俺たちと一緒にいることを選んだの?」
「……だって、この世界に引きずり込んだのは桜悠たちだろう?
俺は、差し出された手を取っただけ。」
「その手を振り払うことも真琴なら出来た。」
「……でも、俺はそうしなかった。
今はまだ気まぐれに流されたっていうだけ。」
桜悠は空を見上げて呟いた。
「俺はまだ、あの時差し出された手を取ったことが正しかったのか、分からないんだ……。」
その言葉にどう返そうか考えるよりも先に、この話は終わりを告げてしまった。
「そろそろお昼になるね。
来都に何も言わず来ちゃったけど大丈夫かな?」
「……俺も同じ感じだよ。楽が拗ねてそう……。」
再び上辺だけの会話に戻ってしまった私たちを、何とも言えない空気が包んだ。
桜悠の顔に、さっきの表情はもう姿を見せることはなかった。
そして、俺たちを見る1つの視線に気づくこともなかった。