誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
「……あなたが仰ることはもっともです。
その言葉に、私たちは返す言葉がありません。
私が代表して責任を負えるのなら、何でもしたいくらいです。申し訳ございません。」
そういって深々と頭を下げる楓さん。
この人は、思った以上に心がしっかりしている。
権力におごれることもなく、それが当たり前と思うこともなく、少なくとも他者と同じであることを望んでいる。
『……頭を上げてください。』
この人なら、信じても良さそうだ。
「いいと思うか?」
『……俺はこういう人は好きだよ。』
「ハンッ、なら合格だな。」
「君がいいと思うなら、僕はそれでいいと思うよ。」
燐理も由樹さんも反対はしないらしい。
『……貴女のご依頼、詳しく聞かせてもらいます。』
「でも、財閥はお嫌いなのでは……?」
『……貴女は自分の立場を理解している。
権力があるから威張るのではなく、権力があるからこそ誰かを救おうという貴女の気持ちは本物だと思ったから。
そういう人は嫌いじゃない。』
「ありがとうございます……っ!!」
まぁ、これで振り出しに戻った訳だけれど。
『……燐理、説明して。』
「あー……なんつーか、適当に言うと人探ししてんだとよ。」
『……大雑把過ぎて分からない。』
「だから、適当にっつっただろうが!!」
「はいはい、燐理落ち着いて。僕から説明するから。」
さすが由樹さん。
どうせ楓さんから話聞いたのだって由樹さんだろうし。
だって燐理がまともに人と話せる訳ない。
いつも適当に相槌打ってるだけだからな、燐理は。
「人探しって言うのは、成宮さんの婚約者さんの弟。
その婚約者も財閥らしいんだけど、婚約者が成宮さんと結婚すると、その婚約者が成宮グループの婿に入ることになっている予定なんだって。
すると、その婚約者の所は跡取りがいなくなる訳で。」
『……それがその弟?』
「うん。
そして、成宮さんと婚約者が結婚するにあたってお互いが出した条件。
成宮グループからは、婚約者が婿に来ること。
婚約者のグループからは、その弟を見つけ出すこと。」
『……その弟は家出?』
「……3年前から行方不明です。
その時、あの子は中学3年生でした。」
3年前にいなくなった弟を探せというのか?
簡単に依頼してくれるが、思った以上に難しいな……。
「な?俺だけじゃ手に負えねーだろ?
もう依頼自体が俺だけの管轄じゃなくなっちまってるからな。」
この街を繁華街を境に2つに分け、私と燐理で管轄している。
燐理にも"加護ノ陣"はしてあるし、由樹さんにもこの間させてもらった。
だけど、これはさすがに燐理だけじゃ時間がかかるな……。
『……その弟くんの情報は?』
だが、その名前を聞いた時、心底後悔しそうになった。
"この依頼だけは、断るべきだった"と。
「その子の名前は……………………伊佐波桜悠。」
その時、誰かの過去の扉が開いた音がした。
その誰かなんて、言わなくても分かってしまった。
なぜなら、既に今日……私はそれを目撃したじゃないか。
あの憂いを帯びた表情を。彼の纏う空気を。