誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
〈ヒャハハハッ!!お前、強いンだなァ!!〉
突然聞こえた声に辺りを見回してみるけど、誰もいない。
いるのは、烏が1匹くらい……烏?
「もしかして、君が話しかけてるのかな?」
〈へぇ、驚かねェんだな?〉
「まぁね。俺の近くにも似たようなのがいるから。
君、使徒でしょ?」
〈その通りだぜェ?
なら、俺がお前に話かけたのも理解してンな?〉
「俺を……契約者に選んだってこと?」
〈ケケケッ、話が早くて楽だなァお前。〉
「それはどうも。」
まさか自分の所にも使徒が来るなんて思ってもみなかったな。
使徒はおとぎ話に出てくる神のようなもの。
みんな誰も信じてはいないだろう。
噂は噂で留まり、俺も嘘だろうと思っていた。
来都がシヴァと契約するまでは。
使徒が来るのは条件があるのを噂で聞いたことがある。
なんでも、自分が見えなくなった人の所に現れるらしい。
そのくらいじゃこの世に何万人もいる。
だが、使徒が見るのは人じゃない。
人の感情どうこうではなく、その人の"命"を"見て"いるのだそうだ。
命までもが諦めた奴……。
俺も、そこまで"弱っている"ってことなのかな……。
「ねぇ、名前を教えてよ。
きっと俺たちは契約を結ぶんだろう?」
〈キャハッ!!
話が分かンのも、ここまできちまうと考えもんだナァ。
帝(ミカド)、それが俺の名だヨ。〉
「帝……良い名前だね。俺は伊佐波桜悠。
まぁ、これからよろしくね。」
そう手を差し伸べると、帝は笑ったような素振りを見せた。
そして、俺の手には羽が落ちてきた。
「……これは?」
〈それが契約の証ダ。
それさえ受け入れれば、お前は契約者になれるんだぜェ?さぁ、どうする?〉
その黒い羽をジッと見つめる。
俺は今まで、来都のことをどこか遠い人間だと思っていた。
その広い背中を頼もしいと思った。
ただ、同時に追いつけないと思った。
アイツの心は、もう普通の俺では近づくことも出来ないのだと。
この羽を、帝を受け入れれば……少しは近づけるのだろうか。
来都と同じ立ち位置にいけば、アイツが見てきたものを見ることが出来るのだろうか。
それが叶うのなら……。