誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
(黒豹side)
俺は目の前にある建物を見上げる。
外見よりも複雑そうな作りをしてそうな建物は、今日のターゲットの屋敷。
「いけるな?」
「ボクも殺りたかったなぁー!!」
「黒鮫は安静にしてるってなっただろう。」
「そぉだけどさぁ。
でも本当はボクの番だったでしょぉ?」
横でブツブツ文句言ってる黒鮫を横目で見る。
「次ン時は譲ってやるからヨ。
今日ぐれェは大人しくしとけ。」
「もぉ……約束だからねー?」
「リョーカイ。行くゼ、帝。」
〈ケケケッ!!初戦闘は血が騒ぐナァ!!〉
今日もさっさと終わらそう。
誰かが傷つくより先に終わらさなければ。
屋敷に入っていく黒豹を見ながら黒鮫がボソッと呟く。
「……やっぱり気にしてるのかなぁ……。」
「だろうな。」
「ボク、迷惑な事しちゃったかなぁ……。」
「いや、逆だ。
俺たちとの接し方に迷ってるんだろう。」
夜空は意図も簡単に心を惑わせる。
「ボクが……使徒を黒豹の所に呼んじゃった……。」
黒蜥蜴は、そんな黒鮫をただ見つめるだけだった。
屋敷からは、それは丁寧におもてなしされた。
「1歩も近づけさせるな!!!撃て!!!」
撃たれ続ける銃弾。
それを防ぐことは極めて難しかった。
"昨日まで"の俺なら。
だが、今は違う。
「柔風(ジュウフウ)。」
風を身体に纏い、銃弾を全て弾き返す。
「な……ッ!?」
「もう……そんなの人間技じゃねぇ……ッ!!」
そうだよ。俺はもう普通の人間じゃない。
だから何だって言うんだ。
〈風、使い分けられるようになったじゃねェか。〉
「まァな。」
黒豹の時は口調が変わる。
よくよく考えてみれば、帝そっくりだと思う。
契約者は使徒に似るっていうが、本当だったんだな……。
来都とシヴァも似て無口だしな。
契約者となった時、俺にも力が宿った。
思考回路を極限まで引き上げ、相手の行動パターンや思考など全てを予測することが出来る。
どっちかって言うと黒豹の時と真逆の心理戦用能力だけど、伊佐波桜悠としては申し分ない能力だと思う。
そして、帝の力で風を操れるようになった。
相手に攻撃する剛風(ゴウフウ)と
自分を守る盾の役割を持つ柔風(ジュウフウ)。
つくづく人間味がなくなったと自嘲してみる。
「てか……全っ然張り合いねェんだけど?
チッ、マジつまんねェわ。」
だだっ広い屋敷もそろそろ歩き飽きた。
向かってくるヤツらも弱ぇヤツばかり。
「おら、もう着いちまったじゃねェかヨ。」
ドアを蹴破り、中に入る。