誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
(桜悠side)
殺し先の邸宅で書類を見たあの日、俺は家に戻ることを決心した。
アイツは、一度決めたら何が何でも俺を殺そうとする。
きっといつか、俺の大事な人たちにまで手を出す。
だったら……その前に俺から戻ればいい。
来都たちの前から消えればいい。
そう決めて来都にだけ電話したけれど、止めはしなかった来都に安心した反面、失わなければいけないことに胸を痛めた。
あそこが、来都たちといた場所が、あまりにも心地よかったから。
「よく戻ってきたじゃないか。」
笑顔を貼り付けて歓迎するかのような雰囲気を醸し出す父親"だった"存在。
「意地でも戻らせようとしていたくせに、よくもそんな平気な顔していえるね?父さん。」
「変わらないな、お前は。
相変わらず何を考えてるのか分からない顔をしている。」
それはあんたもだろうが、と内心舌打ちする。
いつだって、この人のことなんか分からない。
この人にとって何が大切で、何がいらないのか。
まぁでも俺は……この人にとっていらない存在だったから捨てられたんだろうな……。
「今更俺を連れ戻して、何をさせる気なの?」
「それはお前の知ることではない。
まずはそれに相応しいものを身につけてもらおうじゃないか。」
それでこれか……。
俺は手と足に付けられた鎖に目をやる。
「父さんはその年になっても、まだこんな趣味をもってたんなんてね。」
「知っているか?
大きくなった玩具を自分の思うままに操るためには、それ相応の鎖が必要でね。
お前も、それが分かっていたから戻ってきたのだろう?」
「……フフッ、そうだね。その通りだよ。」
「ならば、きちんと身につけるがいい。
私に従うようになるまでな。」
そう言って父さんは出ていった。
「従うようになるまで……か……。
またこの部屋に戻ってくるなんてね……。」
窓も何もないココは、かつて俺の部屋だった。
俺はここで……この無の空間で生きてきた。
その日々を思い出しかけたところで苦々しく思った。
俺はあの頃とは違う。
苦しくもなんともない。
護るものがある。
護らなきゃならない人たちがいる。
そのためなら、何をされても耐えられる。
「……まるで……white castleみたいだ……。」
あの子もこんな風にいつも思っているのだろうか。
なら、あの子の敵である俺は……。
その先を考えるのは躊躇われた。
そして、そのまま俺は無に身をゆだねた……。
end