誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
燐理と別れてからどれだけ経っただろう。
私は、未だに桜悠を見つけられずにいた。
『……無駄に広いんだよ……ッ。
ビビの方は?』
〈駄目よ。
所々に桜悠の匂いはあるけれど、この家……何か変な匂いがするの。〉
『……変な匂い?』
〈大雑把に言えば……動物が好まない匂い。〉
ということは……ビビのための対策?
なぜ……そんなものが……。
〈真琴、人がいるわ。奥の部屋。〉
すぐさま隣の部屋に入って壁に耳をつける。
微かな話し声が聞こえた。
「………………、……だですか?」
電話?喋ってるのは多分秘書。
「招いていないやつまで来てしまったんです!!
早く殺し屋が来てくれないと、奪われてしまう!!
まさか……white castleが弟さんを奪いに来るなんて……えぇ、猫対策はしておきました。」
確かに由樹さんがwhite castleで予告状を出したけれど、ビビがいることは殆どの人は知らないはず。
仕事の時だってビビは加護の陣の近くで身を潜めているのに……。
それに、仕事はいつも夜だから黒猫のビビは見づらい。
だが、ビビを知っているってことは……この電話の相手は、私たちのことを知っている?
「弟さんは地下に閉じ込めてあります。
あの様子じゃ、自分では動けないでしょう。
えぇ、社長からは"殺して構わない"と。
では、宜しくお願いします。」
しばらくそこから動けなかった。
誰が……誰を殺していいって……?
〈真琴、とりあえず地下に行きましょう。〉
『……ッ、あぁ。』
あっていいはずがない。
それは一番やってはいけないことだ。
親が子供を殺すことを何とも思わないなんて……ッ。
今なら、楓さんの依頼の真の意味が分かる。
きっと……楓さんはこうなることを予想していた。
楓さんの依頼は人探しじゃなくて……桜悠を私という護り屋に護ってもらうことだった。