誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。



父さんが俺に対して躾という名の暴力を始めたのは、ある事件がきっかけだった。



大人しめの兄さんと活発だった俺。



性格も行動も真反対で、兄さんが好きな色を青と言うなら、俺は断然赤だった。



それほどまでに違う2人。



財閥としても力があった伊佐波グループ。



小さかった俺でも、理解していた。



父さんのあとを継ぐのは兄さんだと。



成績優秀で性格もいい兄さん。



兄さんの他に誰が適任だろう、と思ったほどだ。



だからこそ俺は、上に立つ者として勉強する時間が多くなった兄さんに不満を抱いていた。



年が離れていただけに、兄さんのことを理解せずに駄々をこねていた俺は、子供だったとしか言いようがない。



思っているだけで良かったのだ。



何もしなければ。



行動に移さなければ。



あんな事件が起きることもなかったのに。










その日はたまたま父さんがいなかった。



だから俺は、兄さんに無理言って外に遊びに行った。



そこで……兄さんが事故にあった。



ボールを追いかけて車道に出た俺を庇って。



ただ、俺たちを苦しめるのはここからだった。










兄さんの……左半身が動かなくなってしまった。



頭の打ちどころが悪く、脳に大きな衝撃が与えられた。



それは、父さんにとって後継ぎがいなくなったということで。



兄さんにとってまともに生活が出来なくなったということで。



そして……それを引き起こしたのは、紛れもなく俺だということ。



そこからだ。



父さんが変わったのは。



兄さんの代わりを俺にし、厳しく教育された。



出来なかったら怒られ、殴られた。



終いにはあの部屋で監禁された。



でも、それも全て俺への罰だと思った。



兄さんの代わりを務めようと努力した。



兄さんになれるように。



でも……結局、父さんの望む俺にはなれなかった。










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