誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
『……俺は……誰も、殺さないッ!!!!もう二度と……ッ!!!!』
脳裏によぎるアノ人の姿。
【お前の手は……綺麗だな。】
そう言って私の手をそっと握ってくれたアノ人の笑顔を、私は忘れない。
そっか……。
あなたが私を止めてくれる、唯一の人だったんだ……。
『……その毒で死ぬことはない。
牢屋の中で罪を償え。』
力は眠ったかのように静かになった。
力が全て眠ってしまう前に……。
桜悠の手足を縛っていた鎖を断ち切る。
『……グ……ッ』
少し、力を使い過ぎたか……ッ
ふらつきかけたが、桜悠が支えてくれた。
「……何で、あんな無茶なんか……。」
『……護りたかったから。
ただ……それだけ。』
「もう二度と、あんなことしないでくれ……。
俺はもう……自分のせいで誰かが傷つくのを見たくない。」
そう呟く桜悠の表情は、あの時屋上で見た表情を思い出させた。
「俺は……人生で2度、大切な人を自分のせいで傷つけた。
1つは兄、もう1つは仲間を。
俺の甘さが。油断が。誰かを犠牲にした。
仲間が俺を庇った時、ある人が助けてくれた。
敵だったのに、関係なく手を差し伸べてくれた。
俺はその時確信したんだ。
"あぁ……俺はこの人のように誰かを助けることも、手を差し伸べることも出来ない。そんな資格、俺にはないんだ。"って。
ずっと1人だったら、誰かを傷つけることもない。
仲間が俺に手を差し伸べてくれたあの日に戻れるのなら、俺はその手を取ることはなかったのに……。」
"俺はまだ、あの時差し出された手を取ったことが正しかったのか、分からないんだ……。"
あの日、桜悠は屋上で私に言った。
その意味がやっと理解出来た。
そして、あの日言えなかった答えも……。
桜悠はみんなと出会う前の私と似ている。
1人でいれば誰にも悪影響を及ぼさない。
私もそう思っていた。
でも、違うと教えてくれた人たちがいた。
だから私は……みんなが私にしてくれたことをする。
『……過去から逃げるな。罪から逃げるな。
本当はもう……気づいているんだろう?
上辺だけの言葉じゃなく、自分の心にある本当の思いを。
過去は変えられない。罪は忘れることは出来ない。
なら……それに囚われるのは損じゃないか?
俺は、その手をとったことを悪いことだとは思わない。
なぜなら……その手によって変えられた桜悠が今ここにいるから。
差し伸べられた手をとったことを後悔することは、今の自分を否定することだよ。
桜悠は……今の自分を否定するのか?』