誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
「……帝、剛風。」
突如、風が後ろから吹き抜けた。
風は桜悠の父親の方へ吹き荒れ、刃となり切りかかる。
「ぐぁ……ッ!!」
風の刃が燐理の縄を切った。
『……燐理!!』
「ハンッ、形勢逆転だな!!」
燐理は解放された。
これで……あとは桜悠次第。
「white castle、助けてくれてありがとう。
俺はもう逃げない。
だから……あとは俺に任せて?」
そう言って私の横を通り過ぎ、1歩前に踏み出した桜悠の肩には、烏が乗っていた。
黒い……烏。もしかして……。
〈キヒヒヒヒッ、やァっと出番かヨ!!
待ちくたびれちまったゼェ!?〉
笑う素振りを見せる烏に、確信を持ってしまった。
『……桜悠、あなたもしかして……。』
「俺は……第三神賢者 伊佐波桜悠。
使徒、帝の力を与えられた者。
もう俺は、誰かを傷つけるだけの俺じゃない。
この能力は誰かを救うために使うよ、父さん。」
桜悠が……契約者?
〈もう二度と契約はしねェと思ってたが……まさかお前が誰かと契約するなンてなァ?黒猫。〉
〈貴方に言われたくないわよ、黒烏。
暴れることが好きな貴方が、他人と関係を持とうとするなんて驚きだわ。〉
ビビと烏は知り合いのようだった。
「神も見る目がない。
こんな出来損ないを神賢者に選ぶとは。」
桜悠の父親の後ろには、さっきの追手がいた。
強硬手段に出たか。
「出来損ないで充分。
その出来損ないに……あなたたちは近づくことも出来ない。」
「いけッ!!!」「剛風。」
迫ってくる追手に対し、桜悠は手を横に薙ぎ払っただけ。
だが、見えないものに行く手を阻まれたかのように追手は吹っ飛ばされた。
〈キャハハハッ、まだまだこっからだゼェ!?〉
これが……桜悠と黒烏の力。
「チッ、打て!!全員撃ち殺せ!!」
「柔風。」
私たちに向けて発砲するが、桜悠の風が私たちの盾となった。
「契約者っつーのは、つくづく人間味がねぇな。」
『……燐理。』
「見つけられたんだな、あいつのこと。」
『……うん。』
「良かったじゃねぇか。
まぁ、あれが親父となると息子も大変だな。」
今、桜悠は戦ってる。
自分を認めてくれない父親と。
ここで終わりにするつもりなんだ。
変わろうと……しているんだ。