誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。










「なぜ抗う!?
お前は私の言う通りにしていれば、悪いことは何も起きないと言うのに!!」



「それは俺の願いじゃない!!
何で全部悪いことになるって決めつけるんだ!!」



「この世はそうなるように出来ているからだ!!
不条理で不平等な世界に……ッ!!
お前の兄も世界に飲まれてしまったではないか……ッ。
なのになぜ!!お前はそれに抗おうとする!?」










あぁ、そうか……。



この人は悲しかったんだ。



幸せだった日々を、自分が大切に育ててきた息子達を、この無情な世界に壊されたことが。



そして……冷たい言葉を浴びせることしか出来ない自分に怯え続ける桜悠を見るのが。



だから、護ろうとした。



兄を護れなかった分、桜悠を護ることを。



この人は……嫌われ役に徹したんだ……。









「俺は……俺を支えてくれる人たちに出会った!!
そいつらが俺を変えてくれた!!
それが今の俺なんだ!!
だから……もうアイツらのそばで偽りの自分でいたくないッ。
父さんの望む俺にはなれない……ッ!!」



間違った方に進んでしまっただけだったんだ。



だから……もう、やめよう?



もうこれ以上、傷つくことなんてない。










『……もう、やめろ。』



私は桜悠と父親の間に割り込んだ。



「護り屋よ、そこをどけ!!」



「……どうして。」



私は桜悠の父親の瞳を見る。



『……正直になればいい。
"ただ、お前を護りたかっただけなんだ"と言えば、すれ違うこともなかったのに。
なぜ……その思いを隠す?』



「……ッ、何の話だ……!!」



『……子供がここまで歩み寄ったんだ。
次はあなたの番じゃないのか?
言葉でぶつかってもいないのに、凶器に頼ろうとするな。
それこそ……この世界の思うツボだ。』



もう終わりにしよう。



傷ついているのは……あなたも同じでしょう?



「……父、さん……?」



「……私がもっとお前たちのことを考えていれば……。
後継ぎなどではなく、息子として接してやっていればッ。
だから決めたのだ。
自分が息子にどう思われようと、もう二度と壊させるものかと!!
親が子供を護るのは当然だろう……ッ!!」










桜悠の瞳は驚きで溢れていて。



だって桜悠は、愛されていないと思っていたのだから。



孤独に苛まれながら生きてきたのだから。



「……俺は……父さんに申し訳なくて……ッ。
兄さんをあんなにしたのは俺で……それでッ!!」



「すまなかった。
私は初めからお前を責めてなどいなかったのだ……。」



「……父さん……ッ。」



桜悠の瞳から涙が零れた。



やっと報われたんだ……。



もう桜悠は自分を否定しないで済む。










『……任務、完了……。』



私と燐理は静かにその場を後にした。



あとはあの2人が何とかしていけばいい。



私の役目は、ここで終わりだ。









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