【完】『そろばん隊士』幕末編
少なくとも江戸では、
「なんだか帝も不憫なもんで」
と囁かれるほど、とにかく新政府の評判は芳しくなかった。
特に町人たちの間では態度が横柄だの、御用金を出せと日本橋の商家や尾張町の街道筋で金銀を強引にせしめるなど、まるで破落戸まがいのことをする者すらあって、
「あいつら新しくてめぇで幕府を開くつもりらしいぜ」
という噂も手伝って、誰も手を貸す者がなかった。
そうした状況のなか。
上野の方角で大砲の音が聞こえたのは、蒸し暑い雨の朝である。
「…始まったか」
手塚は呟いた。
「それにしても大砲とは」
「だから、何をしでかすか分からねぇって言ったろ?」
手塚にすれば、新政府などと大層なことを言われても、裏返せば実権を将軍家からかすめ盗ったという認識で、いわば追い剥ぎや盗賊と変わらない感覚であったのかも分からない。