【完】『そろばん隊士』幕末編

手当てはすぐに片付いたが、

「ただ言っとくが、薩摩や長州は何をしてくるか分からねぇから、これしきの打ち身はおのれで手当てできるようにしといたほうがいい」

と、手当ての仕方を書いた手引きを原田に渡した。

「ところで岸島、お前宮津に帰参したんじゃなかったのか?」

「断られた」

と例の新撰組云々の話をした。

「けっ、なんだ腰抜けじゃねぇか」

原田は吐き捨てた。

「まぁ大名家とはそうしたものかも知れぬな」

岸島は涼しい顔である。

このところの江戸は薩摩の高輪の屋敷の周りで庄内兵と小競り合いがあったり、深川の岡場所で袖章をつけた兵が狼藉に及んだりと、きな臭い話が飛び交っていた。

「吉原はさすがに、花代が高いから行ってねぇらしいが」

「田舎の貧乏侍が江戸を乗っ取って幕府を新しく開くたぁねぇ…」

世も末だ、と手塚は嘆いた。



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