三月の雪は、きみの嘘
それにしても、拓海くんは本が好きな人なんだなぁ。
穏やかな表情で、ときおり軽くうなずいたり目を丸くしたりしながらページをめくる彼は、まるで本の世界の住人になっているようで親近感を覚えた。
時間が止まったように、彼の顔から目を逸らせない。
観察すればするほど、教室にいたときのクールな姿とはあまりに違う。
ひょっとしたら別人なんじゃないかと思うほどだ。
静けさに包まれた空間に溶けるように夢中になって本を読み進めている姿は、私にはまったく気づいていないよう。
ジャマをしてはいけない気がして、私も手元の本を読み始めた。
黄ばんだ表紙をめくると題字が現れ、普段なら私も自然とその世界へ引き込まれていく。
だけど、今日は本文が始まっても彼のことが気になって集中することができなかった。
文字を目で追っていても内容が頭に入ってこない。
試しに、もう一冊のほうを開いてみても同じ。
こんなことは初めての経験だった。