三月の雪は、きみの嘘
「手を洗うのが先でしょ」

そう注意すると、お母さんはぶーたれた顔で、台所で手を洗い始めた。

その間にご飯をよそい、みそ汁をついで私も席につく。

「ビールは?」

甘(あま)い声で催促してくるので、

「木曜日は休肝日にするって、こないだ自分で言ったばかりじゃない」

とたしなめる。

お茶を淹れて差し出せば、お母さんは文句を言うこともなく肩をすくめて食べ始めた。


「あら、おいしい」


私を見て驚く顔を作ったお母さんは、離婚してからのほうがすごく元気そうに見えるし、若返ったたようにも感じる。

長い間悩んでいたことから解放されたからだろう、生き生きしている。

引っ越し先もさっさと決めてしまったし、就職先まで昔の友達にすぐに紹介してもらったらしい。

なかなか学校に馴染めない私とは真逆に思えてしまう。

「浅漬け食べる?」

尋ねると、大きくうなずきながら口いっぱいにご飯をほおばっている。


どっちが子供なのかわかりゃしない。


冷蔵庫から浅漬けを取り出して置いたとき、お母さんが「そういえばさ」と空っぽになった口を開いた。
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