三月の雪は、きみの嘘
昨日、彼が書いた貸出カードの本だったから。

【大重拓海】と書かれた名前をじっと見つめる。

意外に分厚い本だけど、もう読んだってこと? 

カウンターの机からスタンプを取り出すと、カードの【返却済み】の欄にそれを押してから本にしまった。


まだ胸が速く鼓動を鳴らしている。


見ると、拓海くんはすでに昨日と同じ席に座って本を読み出していた。

もうすっかり本の世界へ旅立っているらしく、かじりつくように夢中になっている。

窓からの光が彼をスポットライトのように照らし、キラキラと輝いてみえる。


やっぱりどこかで拓海くんと会ったことがある気がする。


また記憶の中のだれかの面影と重なった、その瞬間……。


『あるところに、ウソばかりついている女の子がいました』


記憶の奥から、ふいにある言葉が脳裏に浮かびあがった。

この言葉は、たしか……子供のころに見た絵本の一行目? 

まるで今の私のことを言い表しているようだ。

ただ、その本がどんなタイトルでどんな内容だったまでは思い出せない。


でも、ひとつだけ確信があった。私にとって大切な思い出がある本なんだ、と。
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