三月の雪は、きみの嘘
「やっぱり」

相好を崩した拓海くんが顔を私に近づけたから、思わずのけぞる。

「そんなに怖がらないでよ。同じクラスなんだし、もっと気楽に」

そんなこと言ったって、驚くに決まってるじゃん。

だけど私の気持ちなんて考えてもいないらしく、拓海くんはカウンター越しにしゃがむと目線を合わせてきた。


ちょっと近いんですけど……。


なにこれ。夢?


「熊切さんって、そういえば図書委員だったよね。うれしいな」

「う、うれしい?」

信じられない言葉に聞き返すと、彼は言葉の通りとってもうれしそうな顔をした。

「うん。だって、本が好きな人に悪い人はいないからさ」

あまりにも純粋な笑顔に、不思議な感覚に包まれる。

まるで小さな男の子みたいに見えたから。

「あ、あの……」

躊躇しながらも、私はいたずらっ子のように見開く彼の目を見た。

「あなたは本当に拓海くん?」

「なにそれ、おかしい」

声を上げてケタケタ笑う彼は、教室にいるときとはあまりにも別人だ。


笑い声なんて聞いたことがない。
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