三月の雪は、きみの嘘
急に現実世界に戻されたように、本を手に取る。

「貸出しだね」

一週間通って、初めて夕方に行う図書委員としての作業。

本の後ろに挟んである貸出カードを抜くと、「お名前を」と差し出す。

「うん」

素直にペンで【大重拓海】と書くから、やはり本人なのだろうと納得するしかない。

昨日と同じで、子供が書くみたいな自由な字だった。

本を差し出すと、拓海くんはまるでプレゼントをもらったようにうれしそうに笑った。


……その笑顔は卑怯だって。


いつもは笑わないくせに、別人のような顔を見せてくる姿に翻弄されているような気分だ。

「目をつぶって」

突然、拓海くんが言った。

「え?」

「いいから。目をつぶって」

ワクワクした顔は無邪気な少年のようで、教室とのギャップに戸惑うばかり。


だけど彼は、困った顔をしているであろう私になんてかまいもせずに、「早く」とせかしてくる。
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