どきどきするのはしかたない
「何が知りたい?涼葉が聞きたい事を言ってくれ」
課長の部屋に着いて、珈琲を入れ、並んでソファーに座っていた。
課長はどうしてこんなに落ち着いてるんだろう。…疚しくないから?
……この大きなソファー。
課長と一緒に寝たんだった…。随分昔の事みたい…。
「逸る気持ちはよく解った。あんな、歩道の真ん中で叫ばれたら、もの凄く俺に非があるみたいに人に見られる。
落ち着いて話せる場所でも無い」
「…ごめんなさい…。私、課長を追いかけて…見つけたら言わなきゃと、そればかりになってしまって」
会社で…その場で何も声を掛けられなかった、…知りたかったから。早く、知りたかったから。
「…あの、課長と…。
…あの女の人は誰ですか?」
知りたいけど聞き辛い。…知るのが恐い。
課長はゆったりとしている、…冷静だ。大人だ。
逆に、あの女性との事、焦る理由が無いとも取れる。それとも……演技?…。
「彼女は…、何となく解らないか?」
「えっ?」
質問返しですか。私に、冷静になれって事ですか?
「会社の人間じゃ無い。
しかも、人が居なくなっている時間を見計らって来るような人だ」
…人に存在を知られたく人。
「…、あ、…課長の結婚相手の人…」
「違う」
「えっ?」
違うって…。じゃあ…本当に私の知らない、…関係のある人が他に?……。そん、な…。
「元、だ。今は違う」
「あ、…あぁ、…はぁ。もう…。びっくりしました」
でも…。
「その人が何故?…」
会社に。
「…会いたいから来た、そうだ」
「……そう、なんですね」
中々の強者…。
「もう来ないでくれとは、ずっと言っていたんだ」
「今までも…来てたって事…ですか?」
もう、って言った。
「ああ、度々な。聞いてくれるような人物では無いから」
…。ドクドクする。来てたのはいつから…。人が居なくなった時間、課長が一人だと知ってて来てた。
会って、いつも…あんな事を?…それ以上も?…あれは、さっきのは、一方的に強引にされたかも知れないじゃない?…。前はどうだったの?
「…何故…どうして?…」
解ってる…課長を諦められないからだ。
「もう来ないよ」
…そんな話をしたのですか。でも、来てた。
「それは、私に酷い事をしたからですか?」
「涼葉には二度と危害を加えないって約束だろ?」
「はい。私との取り決めですから…でも、そこに…課長に会わないとは、ありませんでした」
…。ある訳が無い。私、…詰めが甘い。だからこんな思いをしなくちゃいけなくなってるんだ。
あんな事をされたんだ。これを機に課長とは関わりを持たないという事を相手にしっかりと求めておくべきだった。
…でも、無理だったのかな…。あれは私との取り決めだから。
だからそんな解らないところ、ちゃんと出来るように、弁護士に相談したら良かったんだ。
条件はこちらからも色々提示出来たはずなのに。…はぁ。今更気がついても、後の祭りだ。
「涼葉?今夜、彼女が来たのは、もう会わないと言いに来たんだ。ここにも来たりしないって、言いに」
でも、じゃあ、あれは何…最後だからって…抱きしめてって、言ったんだろうか…。
…その後の事…私は見ていないのだから、…それ以上の事があったかも知れない…。
…誰にも解らない。二人しか居なかった、二人にしか解らない事だもの…。最後だからって、求めたかも知れない。