どきどきするのはしかたない
「…嫌です、課長…」
「ん、どうした?」
「嫌…、課長にその結婚相手の人、…抱き着いていた。…私、見ました」
「うん…まあ、それは避けられなかった。いきなりで」
…。
「それだけですか?」
「それだけ?それだけだよ。最後にするからって、それだけだ」
最後にするからって…。前もしてたの?会う度、抱きしめていたの?
「本当に?それだけ…それ以上は無いのですか?」
「それ以上とは」
「……キスとか、もっと…それ以上もです…」
「していないと言ったら信じてくれるのか?…したと言ったらどうする」
…そんな言い方、…言い方がどうとかでは無い。これは課長自身を信じられるかを聞かれているんだ。
「彼女はこれで最後にするからと言ったんだ。どう思う?」
…試されてる。信じられるのか、信じられないのか、問われてる。
していない、そんな事に課長は応じたりしない、と信じるのか。真実は求めず、ただ課長を信じるのか。
…弱っている時はどうなるか解らない…。何かあっても、それでも構わないと思って信じるのか。…遅い。
まず、私が、信じていると、時間を空けずに答えていない事が、既に純粋には信じる事が出来ないと思っている現れで、それはもう課長に伝わっているはず。
これで最後にするって言った。これでって事は、今までもあったって事になりはしないか。
言葉のちょっとしたニュアンスだけど…。
だけど、前があるから、これで、という言葉になるんじゃないのかな。
…抱きしめたら、キス…したかも知れない…されたかも。無理矢理だとしても。拒めないタイミングでも…女の人からしたかも知れない。そして、課長と……いつしか、甘く…。嫌。
いつだったか、課長は会社ではそんな事はしないと言った。そんな節操のない事はしないと。…私に言った。私とはしないのかも知れない。
だけど…、こんな風に追及しているけど…、私は重大な事を隠しているままだ…。
私は七草さんと関係を持ってしまっている。それは、私から言っておかなければいけない事。だけど言ってない。
課長を信じる信じないの前に、私は責める資格が無かった…。
…嫉妬にかられ、殆ど思考は狂っている…身の程知らずになるところだった。
これはこれ、あれはあれとは出来ない重大な事だ。棚に上げたままでは駄目だ。
「解らない事は、…何も言えません。
…私、…私には、課長に何か言える資格がありませんでした…私…」