どきどきするのはしかたない

特に飲みたい理由があった訳ではない。
お風呂上がり、まだ残っている冷蔵庫の缶に手を伸ばした。
遣りきれない気持ちとか、そんな思いからでもなかったが、プルタブを開け、飲みながらベランダに出た。

「ふぅぅ……。はぁ…」

思いの外、吐き出した溜め息は大きかったのかも知れないし、夜更けで静かだったから、そう聞こえたのかも知れない。
妙に響いた。
感じ取る気持ち次第とも言えるかな。

カチ、…カチ。…フゥー。
…っ、…びっくりした。…居るんだ。
居るならちゃんとお礼を言っておいた方がいい。

「あの…」

「フゥー…。余計な事だったかな…」

「え?」

…余計?
今飲んでいるのも匂いで解ってると思うから。
貰った物、図々しく飲んでるとは思われたくないかも…。早く言わなきゃ。

「あの、これ、頂いてます。これをくれたのは貴方でいいんですよね。あ、カクテルもですけど、苺ショート、何の遠慮も無く頂きました。
あの…有難うございました」

一方的に置かれていた物でも貰ってしまってる。有り難うございましたって言うのが普通よね。
だって飲んでるし、食べちゃったし。

…。

何も言わないけどまだ居るのよね?

…。

部屋に戻ったのかな。
でも、煙草の匂いは漂ってる。

「チョコレート…」

あ、まだ居た。

「フゥー…、溶けてた…」

…あ、ハハ…そうだ、駄目じゃん。
場所が場所だけに、…日中、置きっぱなしになってたら溶けちゃうよね。それは…うっかりしていた。

「…ごめんなさい。気が回らなくて」

「いや。冷蔵庫に入れてある」

あ、…ハ、ハ、ハ。
申し訳ないです。そんな…、再生させるような物を渡してしまって。

「あれは…、別に…用があった訳じゃ無い。だから、余計だったかな」

ん?あれは?…どれ?…用?
話がよく解らない。何の事?
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