どきどきするのはしかたない
並んでエレベーターまで歩いた。距離なんて無いに等しい。だけど、課長は手を繋いだ。
前まで来てボタンを押した。扉が開いた。
「繋いだまま、連れて帰りたいな。…だから、涼葉の部屋には来なかったんだ」
「え?」
手を離された。
「んー、こういうのは勢いで帰らないとな。おやすみ、明日、会社でな」
「あ、課長。…はい、おやすみなさい」
…ボタンを押している。ドアは直ぐに閉まった。下に降りて行った。……はぁ。暫く動かなかった。
「あ、キャ」
やっと部屋に戻ろうと振り向いたら誰かにぶつかった。
「おっと危な。馬鹿だな。エレベーターが閉まる寸前に飛び乗って、そのまま課長の部屋に行けばいいものを。もしくは、引っ張り出すとか」
「七草さん…」
「そのくらい自分から情熱を現さないと伝わらないぞって事だ。ああやって帰っても、引き止めて欲しかったはずだ。そんなの解ってるだろ?
あ、これ、かに玉の皿。ご馳走様、美味しかったよ」
「あ、はい。いつでも良かったのに。食べられる代物で良かったです」
「いや、お世辞は抜きで美味かったよ」
「…それはどうも」
今度は七草さんと部屋に戻った。
……はぁ。
「おやすみなさい」
「モチベーションは元に戻ったのか?まあ、帰られてしまってる今の状態では、また複雑で…、落ちたか。折角、会ったのにな。……そうでも無いのか?」
…。
「話さなければ大丈夫です。でも、今、答えてしまったら落ち込みそうです。だから、おやすみなさい」
「そうか、じゃあな…おやすみ」
「………はい」
ガタ。
「…馬鹿。…解ってるだろうに…。俺の前でそんな顔をするな…」
入って閉まりかけたドアに手を挟むようにして止められた。
えっ?
ターンと音が上がった。
割れないお皿が手から滑り落ちた。