どきどきするのはしかたない

「愛徳…」

「…解らないんです。ちょっと寄るって言われて…。ちょっとって言葉、変に考えてしまって。ちょっとって言ったから、課長が言ってるから、ちょっとがいいんだって。違うと…思ってるけど。…素直になれなくて。好きだと思っているのに、課長に居て欲しいって気持ちより、来た時からどうしたらいいんだろうって思ってしまって。気持ちを探るように…そんな考え方ばかりが先に立って…。
ご飯が終わったら帰るのだろうかとか。お風呂入りますかって聞いた方がいいんだろうかって。よく思い出してみたら、帰る方にしか考えてないと思って。上手く行動も出来なかった。
言えなかったんです。帰らないでって、居て欲しいって。
素直じゃ無いって解ってて、でも、どうしてなんだか解らないんです」

「俺のせいだな。悪かった。俺が書いたメモの事がきっと頭にあったんだな。タイミングが悪かった、ごめん。余計な事をした、疑心暗鬼にさせてしまったな」

首を振った。

「あれは、そんな影響は無いと思います。この人だと思ったら信じる事、って意味だから。
そうですよね?元々、好きな人に対して必要なモノです」

…。

「帰り際に沢山甘いキスをされて…、帰りたくなくなるとか、寂しいもんだなとか、言われてるのに、自分から抱きしめる事もしなければ、さっき七草さんが言ったみたいに、帰らないで、って言えなかった…」

「…その前とか、その時に、何か言われなかったか?」

…。

「私の事は、大人だなって…。顔色一つ変えないって。…課長は自分の事、子供だって…」

「はぁ、多分それだよ。そんな事ないのに、愛徳は冷めてるって言われたようなもんだから、だったら私は言わないって、どこか意固地になったんだよ。言えばいいのに言わなくなったんだ。だから、思ってる事が言えないって、解らなくなったんだ。
冗談みたいな話に取ったかも知れないけど、さっき、エレベーターに飛び乗れば良かったっていうのは一つの手だったんだよ。口で上手く言えないなら、そうやって飛び込めば良かったんだ。上手く言葉に出来ないなら、黙ってぎゅーっと抱き着いたって良かったんだ。されたら堪らなく嬉しいもんだろ?好き合っている者同士なら、それだけで伝わる、解り合えるだろ?そこまでしたら、後は課長にまかせればいいんだから。
最近、追い掛けろって走ったばっかりだろ?
学習しろよ。素直に甘い言葉が出ないなら行動しろよ。行動」

呆れるように話し終えた七草さんに抱き着いた。

「…おい、何…してる」

「じゃあ、今、こうしたかった行動は何ですか?」
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