どきどきするのはしかたない
余所の課の事だ。
課長の動向が気になった。チラッと予定表を見てみた。
一課…山本課長…。今日は…。
取引先に寄ってから出社する事になっていた。これは…昨日の内に記入された物なのか、今朝、連絡が入った物なのか…。
˝取引先˝、この文言は、間違いなくその通りなのだろうか。
前の女性と歩いていたという話にしても、明確に課長に確認した訳じゃない。
あくまで、私が勝手に想像で結び付けたものだ。…どんな形であれ、課長とその女性は、今現在、まだ関わりがあるという事だ…。
関わりは持たない…最後だって言ってた…、あれは嘘?私に嘘をついたんだ…。
それが何を意味しているのか、…見えるような…気がしないでも無い…。
課長は私に言った。『好きな人と結婚しないなら、誰としたって同じだ…』
私が課長に話があるなんて言ったら、それが何か課長には思い当たっているんだ。
だから、動き始めたって事…かな。
大きな魚をみすみす逃す必要は無いもの…。
その『大きな魚』は、どんな状況になっても、課長の事を忘れられない程好いているのだから。
その愛して止まない課長から話を元に戻さないかと言われたら、喜んで受けるだろう。
私の事なんて、何一つ表に出て無いのだから。…無かった事と同じ。私と課長のつき合いだって誰も知らない。…知らなかった。
…元結婚相手の人との話、上手く纏まって、盤石になった事を確信したら、課長から連絡が来るのではないだろうか。
…私は…はぁ、…いつからこんなに、課長を探るような考え方をするようになったのだろう。
課長の好きが解らない…、そう思ってからだろうか。
好き、好きって言われて、言われるとどこかやっぱり嬉しくて、…優しく抱かれてしまうと、疑いもしなくて…。それも上手く思い込ますために?だから…こんな風に、どうしようも無く揺れ続けて。…私は…。
課長から…逃げようとしてる…。
この想像は…まだ解らない事。私が課長に対して、どす黒くなっているだけかも知れないんだし。大人は顔色一つ変えないで上手く言葉を操れる。そして心を掌握する。態度だって、仕草だって…。演じられる人は見事に演じられる。
そんな事を思ってしまうと、…信じるという事は、やはり、騙されてもいいと思うくらいでないと出来ないモノなのかも知れない。そこまで思わないと、出来ない…。私も裏切ってる…。そして、七草さんを。
はぁ、考えを何度繰り返せば、意思が固まるんだろうか。
純粋に"本当だ"とか、"信じる"と言われる言葉、一番信じてはいけない言葉なのかも知れない…。