どきどきするのはしかたない
「愛徳。ちょっといいか」
え?…課長。何ですか。今、仕事中ですよ。
しかも、一課の課長が二課の私に用なんて、普通可笑しいでしょ。
仕事じゃ無いって、なりませんか?
うちの課長が見てますけど。
…。
何も返事をしないのも…可笑しい。仕方ない。
「はい」
返事を確認すると、課長はスタスタと歩いて行ってしまった。どこに行くつもりだろう。
直ぐ傍に立って言った私に対する声掛けは、決して小さく呟くようなモノではなかった。
周りにもはっきり聞き取れるモノだった。
慌てて追い掛ける感じにならないようにして席を離れた。
勿論、同僚に声を掛けて、だ。
フロアを出て姿を探していると、課長が非常階段のドアの前で手招きをしていた。
そこから、外階段の踊り場にでも行くという事らしい。
行かなくていいんじゃないかと思った。
仕事の話では無いのですよね。
今、呼ばれてまで話す事なんて無いはず。
暫く動かず立っていた。
業を煮やしたのか、課長がこっちに歩いて戻って来た。
それ程の距離は無い。
あ。直ぐ手を掴まれてしまった。
「…課長、こんなところ…」
こんな接し方をして、誰かに見られていないか冷や冷やした。
「そう思うなら、早く移動するのがベストだ。
拒否設定したのか、完全に削除したのか。
電話は出ない、連絡を取りたくても繋がらないじゃないか」
そう言って手を引かれ非常階段に連れ出された。
踊り場まで下りてやっと手を離された。