どきどきするのはしかたない

「正しい理屈だと思います。誰か、と、明確に名前を答えてくれなくて構いません。その人は、課長の、元、結婚相手の人ですか?それだけでも教えてください」

「…はぁ、それを知ってどうする…。他人から聞かされた事と自分の中の妄想を足して、想像を膨らませるだけじゃないか…。それに…、名前を言わなくても、もしそうなら、言った事と同じだ」

「あ、…どうしてですか?私に話せない事って、普通、ありますか?
仕事上、極秘だって言われていたら難しいのは解ります。それでも…核心に触れない程度でも無理ですか?…一緒に居ようかと思う人間を、信用しないという事ですよね?」

「…それは、今の涼葉と同じって事か。
涼葉は俺を信じないから、言っている事が信じられなくて、だから無理だって言っている事でも強引に聞き出そうとしている。俺は涼葉を心底信じているからな。
…はぁ、解ったよ。
会っていたのは確かに元結婚相手だ。それ以上は仕事上の重要な事になるから今は話せないんだ。
言っておく。仕事上の関わりだけだ」

グレーだ。これでは何も解らない。でも、グレーは黒では無い。

…。

「その人との結婚話…、またあるんじゃないですか?」

…。

「無い。だけど、信じられないんだろ?もう、あるものだと、刷り込まれてしまってる」

これを刷り込みというのだろうか。その内、事実になるんじゃないの?

…。

「本当に…終わりにしたいのか?」

…。

「後悔はしないのか?俺はこのまま終わらせたら後悔する。信じて貰えなくて終わったなんて…人として最悪だ」

「課長…」

「少なくとも、半年以上はこうしてつき合って来た。
つき合う前、入社した時から涼葉の事はずっと見て来たつもりだ。その上で信じられる。
涼葉は俺の何を見てくれてたんだろうな…。俺よりも周りの人間が言う事か、それを信じるんだな」

…これは、大人の上手い言い回しなの?
それとも本当の事なの?
誰の言葉も聞かず、課長だけを見て、課長の言う事だけを聞いていたら、課長の話す言葉、疑うなんて余地も無い。
私は課長に上手く洗脳されてしまったのだろうか。…はぁ、嫌になる程しつこく疑う自分に…、もうどうしたらいいのか解らない。
解らないから、周りの人の言葉を信じて…課長は信じない…。それが間違いの元?
好きな人を信じるか信じないか、要はそれだけだ。
この人だと思うなら…、騙されてもいいと思うくらいの人なら、貫けばいい…。そうですよね。

「後悔はしたくありません。だから…課長という人を信じさせてください。…だから、終わりにさせてください」

「…どういう事だ…意味が解らない」

「もう、会いません。その上で、課長は信じられる人だったんだと、納得させてください。…帰ります」
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